大阪地方裁判所 平成5年(ワ)10495号 判決 1996年1月31日
原告
小原千鶴子
右訴訟代理人弁護士
村本武志
被告
大和証券株式会社
右代表者代表取締役
江坂元穂
右訴訟代理人弁護士
阿部幸孝
主文
一 被告は、原告に対し、金一一七万四〇四五円及びこれに対する平成五年一一月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを一〇分し、その七を原告の、その余を被告の各負担とする。
四 この判決は原告勝訴部分に限り仮に執行することができる。
事実
第一 申立
一 請求の趣旨
1 被告は、原告に対し、三九三万〇一五〇円及びこれに対する平成五年一一月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 当事者
原告は主婦であり、被告は証券業を営む会社である。
2 原告と被告とのワラント取引
原告は、平成元年五月九日、被告京橋支店従業員の谷口信夫(以下「谷口」という。)の勧誘により、被告から、次のとおり外貨建ワラント(以下「本件ワラント」という。)を購入した。
記
(一) 銘柄 Nシンニッテツ2WR9302
(二) 代金 三五八万〇一五〇円
3 被告の責任
次のとおり、被告ないし谷口の本件ワラント取引についての勧誘行為等は違法であり、被告自身が原告の権利を違法に侵害したものであるから、被告は民法七〇九条により原告の被った損害を賠償する責任がある。また、谷口は被告の従業員であり、谷口の右違法な勧誘行為等は被告の事業の執行につきなされたものであるから、被告は民法七一五条により原告の被った損害を賠償する責任がある。
(一) 説明義務違反
ワラントは、いわば権利行使期間中に株価が権利行使価格を上回るか否かに総てを賭けるギャンブル性の高い商品であり、その価格は、理論的には株価に連動するが、その変動が株価の何倍にも達するハイリスク・ハイリターンな商品である。そして、一般には株価より価格変動が激しく、権利行使残存期間が少なくなると価値が下がり、一定期間が経過すると価格が零となる商品構造を有しており、その仕組みも複雑難解で、一般には新規の証券であるため馴染みがなく、更に外貨建ワラントの場合には、本件取引がなされた当時、流通市場が整備されておらず、相対取引であることによる価格形成過程の不透明・不公正等による危険性もある。
ワラントは、右のとおり、著しい投機性と理解するについて難易度の高い問題点を有する商品であるうえ、一般の顧客は各種の証券取引に精通しているわけではないから、証券会社が顧客に外貨建ワラントを勧誘する場合には、顧客に対し、その取引の基本をなす商品の内容・取引態様について十分な説明と顧客がこれを理解したことの確認をなす必要がある。具体的には、①証券会社及びその従業員は、ワラント価格は権利行使価格と株価との関係及び残存権利行使期間を基礎に激しく複雑に変動すること、②株価が権利行使価格を下回れば理論価格は零となり、この場合には期限内に株価が権利行使価格を上回るとの期待値であるプレミアムのみによって価格が形成されること、③権利行使期間が定められており、これを経過すると無価値となること、④引受権を行使して株式を取得するには、別途権利行使価格金の払込が必要であること及びその払込代金額、⑤ポイント・社債額面・為替レートを乗じた時価算定方法、⑥為替リスクの存在、⑦取引態様としては、店頭取引であり、したがって、証券会社自身が顧客に直接販売する形態で取引され、仕入値と売値との差額が証券会社の利益となること、⑧取引所の市場で価格が形成されるものではなく、業者間の気配値が発表されているにすぎないことを最低限説明する義務がある。
しかしながら、谷口は、平成元年五月上旬ころ、原告に対し、本件ワラントの購入を勧誘するに際し、電話で、「間違いないものだ。絶対儲かるものであるから是非買ってください。」などと申し向けたのみで、ワラントの特質・危険性等について何ら説明しなかった。
したがって、右勧誘行為は、説明義務に違反し違法である。
(二) 適合性の原則違反
ワラントは、取引そのものについての公正確保のための制度的保障を欠く証券であり、誠実公正義務を負う証券会社が一般投資家に積極的に購入を勧誘して販売することは社会的相当性の見地から到底許容されるものではない。原告は、家庭の主婦であり、証券取引について格別知識を有しているものではなく、過去に、僅かの数量、回数の現物株式取引等をなしていたものにすぎず、投資経験も浅く、投資指向も安定したものを好んでいたもので、前記ワラント取引の内容・性質に照らせば、本件ワラント取引について適合性を有しない。
したがって、右勧誘行為は、適合性の原則に違反し違法である。
(三) 断定的判断の提供
証券取引法五〇条一項一号は、証券会社又はその役員・使用人が断定的判断を提供して勧誘することを禁止しているところ、谷口は、原告に対し、前記のとおり、本件ワラントを購入すれば絶対儲かる旨説明し断定的判断を提供した。
したがって、右勧誘行為は、断定的判断の提供に該当し違法である。
(四) 本件ワラント購入後の情報提供義務違反等
被告従業員は、本件ワラント取引成立後、原告に対し、ワラント価格の下落と早期売却の必要性を原告に告知していないのみならず、「値を戻すからもう少し待っていたほうがいい。」旨誤った助言をした。そのため、原告は、本件ワラントの著しい危険性を認識できず、転売の機会を失い、本件ワラント購入代金全額の損失を被るに至った。
したがって、被告従業員の右行為は、情報提供義務等に違反し違法である。
4 損害
(一) 購入代金相当額の損害
三五八万〇一五〇円
原告は、本件ワラントの権利行使期間が経過し無価値となったため、購入代金相当額三五八万〇一五〇円の損害を被った。
(二) 弁護士費用 三五万円
相当因果関係にある弁護士費用は三五万円である。
5 よって、原告は、被告に対し、不法行為による損害賠償請求権に基づき、三九三万〇一五〇円及びこれに対する不法行為後の平成五年一一月一〇日から支払済みまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1、2の事実は認める。
2 同3の事実のうち谷口が被告の従業員であることは認めるが、その余は否認する。
原告は、ワラントについて商品の危険性、複雑性を過度に強調しているが、右は商品の内容等を曲解ないし歪曲しているものである。ワラントには、(一)投資資金が小額で足りること、(二)投資効率が良いこと、(三)リスクが限定されていること、(四)中長期的投資が可能であることなどの利点も有している。また、証券会社に取引上一般に説明義務があるとする法的根拠は存在しない。仮に証券会社に説明義務が認められるとしても、谷口は、本件ワラント取引を勧誘するに際して、原告に対し、(一)ワラントが一定期間内に一定の価格を払い込むことによって一定数量の新株を引き受けることができる権利であること、(二)ワラントの価格は株価の変動に連動して上下すること、(三)一定期間(権利行使期間)を経過すると権利の価値がなくなることを十分説明したし、また、本件取引成立後にはワラントに関する説明書を原告に交付しているから、右義務は尽くしている。更に、原告は、本件ワラント取引を行うまでに、株式取引、信託取引、転換社債、債権取引などの各種証券取引を行い、証券取引については十分な知識と経験を有していたから、本件ワラント取引について適合性に欠けるところはなかった。
3 同4の事実は否認する。
第三 証拠
本件記録中の証拠関係目録記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
一 請求原因1(当事者)、2(原告と被告とのワラントの取引)について
請求原因1、2の事実は当事者間に争いがない。
二 請求原因3(被告の責任)について
1 本件ワラント取引に至る経緯等について
前記争いのない事実に、成立に争いのない甲第一、第二、第一二、第一三号証、乙第一、第二号証、第四ないし第九号証、第一一、第一四、第一九号証、原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第一一号証、証人谷口信夫の証言により真正に成立したものと認められる乙第一五号証、原本の存在及び成立に争いのない乙第一六号証、証人谷口信夫の証言、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を合わせれば、次の事実が認められる。
(一) 原告は、大阪市中央区に本店のある小原株式会社の代表取締役小原一弥の妻であり、前記のとおり主婦である。
原告は、被告梅田支店との間に、昭和五四年三月から小原秀弥名義で、遅くとも昭和五五年から小原一弥名義で、昭和五六年六月から原告名義で、株式、投資信託、転換社債、外国投資信託等の証券取引をしてきた。そして、被告梅田支店の担当者であった谷口が被告京橋支店に転勤したのに伴って、昭和六三年八月二六日同支店に小原秀弥名義の取引口座を開設し、同支店においても転換社債、投資信託、外国債券、中国ファンド等の証券取引をするようになった。
しかし、原告は、これまで、先物取引や信用取引などの危険性を有する証券取引の経験はなく、昭和五七年一〇月二六日小原一弥名義で非分離型のダイエーワラントの取引をしたことはあるが、本件のような分離型のワラントの取引の経験はなく、その知識を全く有していなかった。
(二) 谷口は、平成元年五月九日、原告に対し、一〇分ないし一五分程度電話して、保有する帝人の転換社債を売却して本件ワラントを購入するよう勧誘した。その際、谷口は、原告に対し、①ワラントは株式を買い取ることができる権利を売買するものである、②権利行使の期間は四年間であるけれども、短期間で売買するものである、そして、③その価格は株価の変動によって上下し、投資効率が高い商品であると説明したものの、後記のようなワラントがハイリスク・ハイリターンな商品であることを十分説明しなかったうえ、ワラントは権利行使期間を経過すると無価値となるし、また権利行使期間経過前であっても株価が権利行使価格以下となり、権利行使期間内に再び権利行使価格を上回るとの期待が存しない場合にも同様無価値となることについては全く説明しなかった。しかし、谷口は、原告に対し、ワラントが絶対儲かる商品であるから是非購入するよう勧めたことはない。
原告は、谷口の勧誘により、ワラントについて十分な理解ができないままで、同日被告から前記のとおり本件ワラントを三五八万〇一五〇円で購入した。
(三) 被告は、原告に対し、本件取引が成立後間もなく、買い付けた商品が新日本製鉄ワラントで、且つ外国商品であること、数量一〇万ドル、単価26.50ポイント、為替レート一三五円一〇銭、最終積算金額が三五八万〇一五〇円であることが記載された外国証券・外国証書取引報告書及びワラントの内容、仕組、価格形成などがその危険性にも言及しつつ顧客が理解し易いように記載された「分離型ワラント」と題するパンフレットを送付した。また、原告は、平成元年五月一六日ころ、銘柄新日鉄ワラント、数量一〇万ドル、権利行使最終日が一九九三年二月一六日と記載された本件ワラントの預かり書を送付した。
更に、原告は、被告に対し、平成元年一〇月ころ、ワラントは期限付の商品で、権利行使期間が終了したときにその価値を失うという性質をもつ証券であり、その価格は理論上株価に連動するが、その変動率は株式に比べて大きくなる傾向がある等のワラントの特質・危険性等についての記載がなされた日本証券業協会作成の「外国新株引受権証券(外貨建ワラント)取引説明書」と題するパンフレットを送付した。
しかし、原告は、右パンフレット等を検討することはなかった。
(四) 谷口及びその後を継いだ被告の従業員は、原告に対し、その後、別口の証券取引を勧誘する際等に、本件ワラントの価格を報告していた。しかし、本件ワラントの価格が下落していたため、原告は、これを売却しないでいるうち、権利行使期間が経過し、その価値は零となった。
前掲甲第一一号証及び原告本人尋問の結果中右認定に反する部分は前掲証拠と対比してにわかに措信し難く、他に右認定を覆すに足る証拠はない。
2 ワラントの特質・危険性について
成立に争いのない甲第三、第七、第一〇、第一二、第一三号証、乙第一一号証、原本の存在及び成立に争いのない甲第一六、第一七号証、乙第一六号証及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
(一) ワラントは新株引受権付社債のうち新株引受権又はこれを表象する新株引受権証券を指称するものであり、ワラント債発行会社の株価が権利行使価格を上回っている場合にその権利を行使して現在の株価よりも低い価格を払い込むことによって、当該株式を取得できる点に価値があるため、ワラントの価格は、理論的には新株引受権を行使することによって得られる利益相当額、すなわち当該ワラント債発行会社の現在の株価から権利行使価格を差し引いた額を基準に決定されるが、現実には将来における株価上昇の期待値が付加された価格で取引され、外貨建の場合には、さらに為替相場の影響を受ける。
しかし、為替相場の影響については、外国株式でも同様であって、外貨建ワラントに特有のものとはいい難い。
(二) 一般的にワラントの価格は株価の変動に伴ってその数倍の幅で変動する傾向があるため、比較的小額の投資で高い利益を得ることができる反面、値下がりも激しく損失を受ける危険も大きく、この意味においてワラント取引は株式取引との比較においてハイリターンであるとともにハイリスクである。
(三) ワラント取引において利益を得るためには、ワラントをその購入価格以上の価格で売却するか、株価が権利行使価格を超えて高い水準になったときに新株引受権を行使して新株を取得し、これを売却することによるが、購入後にワラントの価格又は株価が上昇しない場合にはその機会が少なく、株価が権利行使価格以下の価格となり、権利行使期間内に再び権利行使価格を上回るとの期待が存しない場合にはワラントは無価値となり、権利行使期間の経過によって権利は消滅して無価値で確定する。
(四) 外貨建ワラントの取引は、証券会社の店頭での相対取引で行われるが、相対取引は株式、債券等でも行われており、外貨建ワラントに特有なものとはいい難い。
本件ワラント取引がなされた当時も、外貨建ワラントの価格は、ロンドンの業者間市場における気配値や株価の動向等を参考として決定されており、原告主張のように証券会社が恣意的に決めていたものではない。
3 一般に証券取引は本来危険を伴うものであり、投資家自身において証券会社が提供する説明・助言等を参考にして、自らの責任で当該取引の危険性の有無・程度を十分考慮して、当該取引に参加すべきか否かについて判断すべきであって、このことは本件のようなワラントの取引においても妥当する。
しかしながら、証券会社と投資家との間では、証券取引についての知識、情報に量的・質的差があり、しかも、証券会社が投資家に対し投資商品を提供することによって利益を得るという立場にあることからすれば、証券取引の専門家としての証券会社の従業員による投資商品についての説明・情報の提供等を信頼して証券取引を行う投資家の保護をはかる必要性もあるところ、証券会社又はその役員もしくは使用人による断定的判断の提供・虚偽の表示又は重要な事項について誤解を生ぜしめる表示等を禁止した証券取引法五〇条一項一号、同五号及び証券会社の健全性の準則等に関する省令一条一項一号、証券会社において投資家が不測の損害を被らないために配慮すべき事項を定めた大蔵省証券局長から日本証券業協会会長宛の昭和四九年一二月二日付通達「投資家本位の営業姿勢の徹底について」及び財団法人日本証券業協会の規則(公正慣習規則)などは、公法上の取締法規又はその目的達成のための行政通達あるいは業界団体の自主的規制としての性質を有するものであるから、証券会社の従業員の顧客に対する投資勧誘行為がこれらの定めに違反するからといって直ちに私法上も違法であるということはできないが、右のような投資家保護の要請とこれを具体化した右各法令等の趣旨からすれば、証券会社の従業員は、投資家に投資商品を勧誘する場合には、投資家に対して、虚偽の情報又は断定的判断を提供するなどして、投資家が当該証券取引に伴う危険性についての的確な認識や投資判断の形成を行うのを妨げてはならないし、またワラントは前記のとおり取引に伴う危険性が高い商品であるから、その購入を勧誘する場合には、当該投資家の投資に対する知識、経験、判断能力等に応じて、信義則上、投資についての意思決定にあたって不可欠な当該取引に伴う危険性等について説明すべき義務を負うものと解するのが相当である。そして、右義務に違反する勧誘行為は社会的相当性を逸脱し、私法上も違法なものとして不法行為を構成するものというべきである。
4 そこで、谷口の本件ワラントの勧誘行為等が違法であるか否かについて検討するに、前記認定の事実によれば、原告は、主婦であり、これまで、先物取引や信用取引などの危険性を有する証券取引の経験はなく、また、本件のような分離型のワラント取引の経験もなく、その商品知識を全く有していなかったのであるから、谷口は、右のような原告に対し、本件ワラント取引を勧誘するに際しては、その取引に参加するか否かを決定するについて不可欠であるワラント取引に伴う危険性(ワラントの価格は理論上株価に連動するがその変動率は株式に比べて大きくなる傾向があり、ワラントはハイリスク・ハイリターンな商品であること及びワラントは期限付の商品であり権利行使期間が経過したときはその価値を失うこと)について十分説明すべき義務があるものというべきである。ところが、谷口は、前記のとおり、原告に対し、電話で一〇分ないし一五分程度ワラントについてその有利性を強調して簡単に説明しただけで、特に顧客にとって極めて重要な情報であるワラントがハイリスク・ハイリターンな商品であることについて十分説明せず、また、権利行使期間を経過すると無価値となることについて全く説明しなかったから、谷口による本件ワラントの勧誘行為は説明義務に違反し社会的相当性を著しく欠くものと認めるのが相当である。
以上のとおり、谷口の本件ワラントの勧誘行為は説明義務に違反し社会的相当性を著しく欠くから、違法なものというべきところ(なお、前記認定の原告のこれまでの証券取引の経験等に照らすと、本件ワラント取引について原告が適合性を欠いていたものとまではいい難いし、また、前記認定の事実からすれば、谷口が断定的判断の提供をなしたり、谷口らにおいて情報提供等の義務に違反しているものと認めることはできない。)、谷口が被告会社の従業員であることは当事者間に争いがなく、また右のとおり谷口の違法な勧誘行為は被告の事業の執行につきなされたものであるから、被告は民法七一五条により原告が本件ワラント取引により被った損害を賠償する責任がある。
三 請求原因4(損害)について
1 購入代金相当額の損害
前記認定のとおり、原告は、権利行使をすることなく権利行使期間を終了させたため、本件ワラントの価値は零となったから、原告は、本件ワラント取引により購入代金相当額三五八万〇一五〇円の損害を被ったものということができる。
ところで、前掲甲第一一号証、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、(一)本件ワラント取引についても自己責任の原則が妥当するところ、原告は、本件ワラントを購入当時、ワラントについての知識が全くなかったのであるから、谷口から勧誘された際、適宜質問をしたり、他の方法で研究するなどしてその特質・危険性等について理解する努力をなすべきであったのに、利益の追求に急なあまりこれを怠ったこと、(二)前記のとおり、原告は、本件ワラントの取引がなされた後、被告からワラントの特質・危険性について説明した「分離型ワラント」と題するパンフレット及び外国新株引受権証券(外貨建ワラント)取引説明書と題するパンフレットを受け取ったのに、その内容を検討することなく放置したことが認められるところ、前記「本件ワラント取引に至る経緯等について」において認定した事実のほかに、右認定のような事情をも考慮すると、右損害の発生・拡大につき原告にも過失があったことが明らかであるから、この点を斟酌して、原告の右損害のうち三割の一〇七万四〇四五円を被告に負担させるのが相当である。
2 弁護士費用
本件事案の内容、審理経過、認容額その他本件に現れた一切の事情を考慮すると、本件不法行為と相当因果関係にある弁護士費用は一〇万円が相当であると認められる。
四 結論
よって、原告の本訴請求は被告に対し一一七万四〇四五円及びこれに対する不法行為後である平成五年一一月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条を、仮執行宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官大谷正治)